先日、某A社にプロデューサーのN氏と打ち合わせにいったときのこと。
A社のプロデューサーU氏の下に新入社員さんがついていた。
スーツがまだぎこちない、爽やかで元気いっぱいな青年だった。
U氏「みなさんに飲み物おだしして」
新入社員さん「(笑顔で)何がよろしいですか?」
ちなみにA社はロビーに紙カップの自動販売機があり、社員証で購入するシステム。
U氏「コーヒー」
私・N氏「同じで」
新入「かしこまりました」
そのまま出て行こうとする新入社員さんに、
U氏「それで行っちゃっていいの?ミルクとか砂糖とか確認した?」
新入社員さんは「あっ」と立ち止まり、
新入「(笑顔で)ミルクとお砂糖は?」
U氏「ブラックで」
私・N氏「私も」
それをきくと、新入社員さんは笑顔ででていった。
飲食店でのバイト経験がある私には、彼がまだミスを犯していることに気づいていたが、それを指摘するのは私の立場ではないと思い、黙っていた。
きっとU氏もN氏も彼のミスに気づいていたのだろう。
予想通り、新入社員さんは手ぶらで戻って来た。
新入「あの、ホットかアイスは?」
三人「(同時に)ホットで」
そして新入社員さんは照れ笑いを浮かべて再びロビーへと向かい、私たちは無事ブラックのホットコーヒーをだしていただき打ち合わせを始めたのだった。
それから3週間後。
私とN氏は再びA社へ。
U氏はまだ前の打ち合わせが終わっていなかったらしく、私たちは新入社員さんに会議室に案内された。
新入社員さんはこの3週間でいろいろと経験を積んだのだろう、以前に比べて自信に満ちた表情をしている。
私たちが席に着くなり、新入社員さんは笑顔できいてくれた。
新入「お飲物は?」
N氏「ホットコーヒーで」
新入「お砂糖とミルクは」
N氏「なしで大丈夫です」
新入「ブラックですね」
N氏「はい」
ちゃんと砂糖とミルク、ホットかアイスを確認した彼は満足そうに私にもたずねてくれた。
私は喉が渇いていたので、コーヒー以外のシュワッとしたものを飲みたかった。
私「あー、じゃあ、コーラをお願いします」
ここで私はある期待を抱いていた。
もしかしたら彼ならやってくれるかもしれない。いや、でもまさか……。
すると新入社員さんは、期待を裏切ることなく満面の笑みできいてくれた。
新入「ホットですか? アイスですか?」
自分がちょっとおかしいことを聞いているだなんて思っていない、キラキラした瞳だ。
私は笑いを堪えながら、ある意味あるならホットコーラというものを飲んでみたいと思いつつ、いたって冷静に答えた。
私「アイスで」
新入「では、ブラックのホットコーヒーと、アイスのコーラですね」
彼は丁寧に確認して、ロビーへ向かった。
会議室に残された私とN氏。
私「いやー、彼、期待を裏切らないですね」
N氏「そうですね」
そして彼はコーヒーの入った低めの紙コップと、冷たいコーラが入っているのであろう高めの紙カップを手に会議室へやってき、私たちの前にだしてくれた。
新入「では、Uが来るまでもう少々お待ちください」
完璧だ。きっと彼は心の中でガッツポーズしたに違いない。
彼がでていったあと、私とN氏は彼が完璧に用意してくれた紙コップを手にとり、ドリンクを飲もうとした。
私は背の高い紙コップを握り、中身をのぞきこんで微笑んだ。
私「Nさん、すごいですよ」
N氏「どうしました?」
私「これ、コーラじゃなくてメロンソーダです」
私の手に握られたカップの中では、緑色の液体がシュワシュワと楽しそうに弾けていたのであった。
いやー、さすがA社さん。ファンタスティック!!
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